▼ ▲ ▼

 マイキーに呼び出された。マイキー、という言葉を出すことすら実に十年以来のことだった。だというのに、私達は心の奥深くで繋がっていた。彼の部屋のドアを開けた時、私が感じたのはマイキーの変化ではなく、昨日会ったばかりかのような懐かしさだった。

「来たな」

 マイキーは柔らかい声を出した。表情は固いままだ。私は彼に近寄る。マイキーは腰を抱くことも手を繋ぐこともしなかった。そうする必要もない、と考えているのかもしれない。事実私はマイキーの顔を見ただけで、マイキーがまだ私を好きでいることを察してしまった。マイキーも同じだろう。

 マイキーは私の手をとり、優しく何かを握らせた。それが刃物であるということは、柄の感触からわかった。

「オレの仲間が上手く収拾つけてくれることになってんだ」

 マイキーはゆっくりと話す。普通なら震えてしまいそうな状況なのに、何故か私は冷静に聞いていた。

「頼む。終わるならオマエの手がいい」

 マイキーは笑った。マイキーが生きることにどれほど苦しんでいるのかは、私がよく知っていた。その上で、自らを殺す相手に私を選んだのだと思ったら、もう実行しないわけにはいかなかった。

 私が刃物を握る。マイキーは一瞬切ない表情を浮かべた。

「これでようやくオマエの初めて貰えたな」

 私はマイキーを刺しながら、初めてマイキーと体を重ねた日のことを思い出していた。私が初めてではないと言うと、少し寂しそうな顔をしながらも抱いてくれた。でも、今日間違いなくマイキーは私の初めての人になった。人を殺した感触は、忘れられそうになかった。それがマイキーだからなのかはわからなかった。