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 思春期に入ると共に、私は頭痛持ちになった。気圧、睡眠不足、はたまた気分の良し悪しで、私は座っていられないほど頭痛に悩まされるのだ。そういう時、私は手を挙げて保健室に行った。横になって一時間ほど眠れば、教室にいられる程度には回復する。クラスメイトからの白い目を感じながら、私はいつも保健室へ逃避行した。

 養護教諭は私の顔を覚えていた。また起きたのね、と言って形ばかりに体温を測り、私をベッドへ案内する。布団に包まれると、私は漸く息をつけた。痛む頭を押さえて目を閉じる。次に目覚めた時、辺りにはチャイムの音が鳴り響いていた。

「苗字さん、具合はどう」
「大丈夫です」

 私は体を起こし、ベッドから出る。保健室を出て行こうとしたところで、大きな影とすれ違った。――彼だ。

「すみません、なんだか具合が悪くて」

 私は逃げるように扉を閉めた。私が保健室へ行くと、彼は必ず後から現れた。きっと彼も体が弱いのだろう。私と彼の接点は保健室でしかなかった。名前も知らないまま、卒業していくのだろうと思っていた。

「次は、全国出場のバレー部です」

 翌月の壮行会にて、私は信じられないものを見た。彼がバレー部として立っているのだ。うちの男子バレー部は強豪である。保健室に通うほど体が弱いなら、とてもではないが務まらないだろう。しかも、彼は中心にいるではないか。

「見ててくれてありがとうね」

 次に保健室ですれ違った時、彼は言葉を落とした。私は思わず立ち止まる。壮行会でのことを言っているのだ、と直感した。

「君が使った後のベッド、凄く落ち着くんだ」

 私は彼が何のためにそんな言葉を吐いているのかわからなかった。一つの可能性が浮かぶ。彼は本当は元気なのに、私の使用後のベッドに寝るために来ているのではないか、と。でもそんなことをして何になるのか。答えは聞いてみなければわからない。聞ける勇気はない。私が立ち尽くしている内に、彼は私が先程まで寝ていたベッドに入った。