▼ ▲ ▼

 彼女が出した包みを見て、僕は少し困った顔を浮かべた。何せ今月はバレンタインがあるのだ。いや、バレンタインにチョコを贈るのは普通のことなのだが、僕は毒殺を避けるため二月に貰うチョコレートは食べないようにしている。

「僕、二月は断るって言ってるのに何で今月に告白するの?」

 普通なら、こういった質問はしない。ありがとうと受け取って捨てて終わりだ。彼女が準備してきたのを知っているから、僕は責めるような口調になる。

「毒殺が嫌だからって理由にされたくて……」

 彼女は逃げるように俯いた。そういえば、彼女とは自信がない子だった。僕に告白しても断られると踏んで、フラれる理由を毒殺のせいにしたいのだろう。その自己内で完結しがちなところは、僕が直してやらないといけない。

 僕はおもむろに包みを開け、チョコを齧った。そのまま全て咀嚼して飲み込んだ。彼女はそれを驚いたように見つめていた。

「断る理由なくなっちゃった」

 僕は笑う。さあ、ハッピーエンドの準備はできた。彼女の瞳が揺れた。

「え、じゃあ……」
「そう、付き合うよ」

 僕は両手を広げる。彼女は追い詰められたような声を出した。

「私が嫌いだからって理由になるんじゃなくて!?」

 彼女はまだ毒殺以外の理由があると考えているのだ。これは頑固そうだ、と思いながら僕は彼女に近寄る。戸惑う小さな体ごと抱きしめる。

「ひどいなあ、自分は大事にしなきゃ」

 初めて触れる彼女は柔らかくて、僕の中で小さく震えていた。その怯えすら可愛いと思うなんて、いつから僕の性癖は曲がってしまったのだろうか。きっと彼女のせいだ。

「まあ僕が大事にするよ」

 体を離したら、付き合うことを言葉にして確かめなくてはならない。臆病な彼女にはそれくらいがちょうどいいだろう。だが、今はもう少し体を寄せていたい。彼女が卒倒してしまう限界まで。僕はゆっくりと目を閉じた。