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佐久早と帰り道が一緒になってしまった。佐久早は他の友達も交えてなら話すこともあるが、一対一はほぼない。そもそも、佐久早自身があまり話さないタイプだ。ここは私が何とかして話を繋げるしかないのだろう。私は笑みを携えて、佐久早の方を向いた。
「最近部活の練習どう?」
佐久早と言えばやはり部活だ。今日これほど早くに上がっているのは体育館の調整だと聞いている。適当にはぐらかされるだけだろうと思っていたが、佐久早は予想の限りではなかった。
「ハニートラップか?」
「え?」
今、一般の高校生にはふさわしくない単語が聞こえた気がする。顔の笑みを消す私に、佐久早は「部活のメニューは部外秘なんだよ」と言った。確かに、強豪ならありそうな話だ。私は何本かの電柱を通り過ぎる。たっぷり時間が経ってから、我に返ったように口を開いた。
「ハニートラップって私何もしてないじゃん! 話しかけただけだよ」
佐久早が言いたいのは、強豪のバレー部の秘密を私が抜き出そうとしているということだろう。だが私はバレー関係者ではないし、何なら佐久早と同じ井闥山学院の所属だ。むしろ佐久早のことを応援している。そのことを伝えると、佐久早は顔を背けるように車道の方を見た。車も何も、通っていない。
「お前の場合はそれがハニートラップなんだよ」
「どういう意味!」
「自分で考えろ」
短いやりとりを交わして、結局沈黙に帰ってしまう。私と佐久早のコミュニケーションは失敗してしまったようだ。どうせ中身のない雑談なら、次のテストの話でもした方がよかった。でも何故ハニートラップなど言われないといけないのか。その謎は、まだまだ解けそうにない。
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