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「アキくんそろそろ結婚しないの?」

 自分はどうなのだ、というツッコミが来ることを承知で、私はアキくんに尋ねた。目の前で多くの人が行き交う様子を、私達はじっと眺めていた。私達の平均寿命は彼らの半分もないのだと思ったら変な心地がした。

「俺、寿命があと数年しかないんです」

 思わずアキくんの方を向く。デビルハンターとしての危険を嘆いているのではなく、どうやら本当に、生きられないようだった。アキくんの刀が寿命を縮めるものとは聞いている。アキくんはタバコを口から出して手に持った。

「そろそろ、とかありません」

 まるでタバコに言葉を聞かせるように。アキくんは声に出した。私は少しの間考えに耽る。

「今私のことフった?」
「何でですか」

 アキくんは珍しく新鮮な驚きの表情を浮かべた。彼が歳に見合った表情をするのは久しぶりのことだった。私はタバコも持っていない手で人差し指を宙に向ける。まるで、見えない誰かに授業をしているかのように。

「デビルハンター同士なら理解がある」

 私は直接的な言葉を避けた。一般人に比べて、デビルハンターは置いていかれることに慣れている。伴侶を悪魔に殺されたところで、さほど取り乱しはしないだろう。アキくんは一度考え込むような顔をした後、やはり苦いような表情を浮かべた。

「でもその後一人にさせちゃうじゃないですか」

 アキくんは優しいようだ。アキくん自身が一人にされたくない、と思っているのかもしれない。アキくんは寂しがりなのかな。

「別にそんなのいいじゃん」
「少なくとも苗字さんは、一人にさせたくないです」

 私がもしタバコを吸っていたら、今この瞬間に大きく煙を吸い込んで、吐き出していただろう。それくらいタバコというものは、間を持たせるのに便利な代物だった。私はタバコを持つ代わりに人差し指を立て、アキくんに掲げてみせる。まるでこれがただの提案であるかのように。

「じゃあ結婚しなくていいからさ、死ぬまで一緒にデビルハンターやろうよ」

 またしても私は直接的な言葉を言えなかった。死ぬまで一緒にいる、の意味はデビルハンターかどうかで変わってくる。一般人なら添い遂げることを指すのだろうが、デビルハンターならただ単に仕事をするだけだ。

「そう、ですね」

 アキくんは煙を吸い込んだ。何の言葉を飲み込んだのだろう、と私は思った。