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 こいつといると、頭がぼうっとする。それがいいことなのか悪いことなのかはわからない。たまにこのまま馬鹿になるのではないか、なんて思ったりする。でも名前といる時の自分は、不思議と嫌いではない。むしろこちらの方が素なのではないかと思うこともある。

「お前、俺ともっと一緒にいたい?」

 カーテンが風を受けて膨らんだ。冬だというのに開けられた窓のせいで、窓際の俺達は寒い思いをしている。でも、真冬の白い光を受けて作り物のように見える名前はなかなか悪くない。

「はい」

 何の迷いもない、即答だった。急に訪れた質問の意味も問わない。こいつのそういった愚直なところに時に救われて、時に追い詰められた。今だって、背を押されている。

「じゃあ俺、バレーやめちゃおうかなぁ」

 ぽつりと呟いた一言は、上手く風には乗らなかったようで俺達の間に滞留した。名前は責めるでもなく俺を見ている。やめろ、その目をするな。

「……なんか言えよ」

 歳はこいつの方が下のはずなのに、今の俺は随分とガキらしかった。どうして、こいつは時折俯瞰して俺を見るような真似をするのだろう。聞いてみたところで、こいつが理解してやっているとも思えない。

「別に、及川さんがバレーをやめたところで何も変わりませんから」

 私達が今まで一緒にいたことも、出会ったことも。名前はすらすらと語った。心から思っているようだった。多分、俺を勇気づけようとしているのだろう。バレーをしなくなってもこいつは俺を好きだと。無償の愛のような響きで。

 でも、こいつと俺が出会ったのはバレーを介してだった。部活の時間に体育館を訪ねてきた名前に、俺が応対した。もしバレーをやめたら、名前を見るたびに俺は祝福すべき出会いを呪う気がした。

 息を大きく吐く。名前の肩がびくりと揺れた。大方俺の行動がわからないとでも思っているのだろう。大丈夫、俺にもわからない。

「お前を理由にやめようとしたこと少しは責めろよな」

 多分今の俺は弱々しい顔をしていることだろう。まれにそういった表情をしているのか、名前の反応はそこまで驚いたものではなかった。

「まだまだ俺はバレー続けるよ」

 俺が姿勢を正すと、「及川さんってあまのじゃくですね」とこいつが言った。本当にわかっているんだか、いないんだか。