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 デンジの目はぎらついていた。最近、吉田に邪魔をされてなかなか人間椅子になれていないのだ。貴重な収入源がなくなり、デンジは困窮している。追い詰められた末に、デンジは拳を握った。

「名前とセックスした話を百円で売ればいい。これで男子からも金がとれる」

 いいことを思いついた、とばかりにデンジの表情は希望に満ちている。今までの人間椅子は、女子からしかお金をとれなかった。しかしセックスの話なら聞きたがるのは男子だろう。デンジは名前とセックスしていた。それが何回なのか、二人は恋仲なのか、ということは定かではない。

「名前さんとセックスした話を聞きたい男子がそれほどいるかな」
「あ?」

 隣に立っていた吉田が口を開いた。相変わらず何を考えているかわからない表情をしている。全てを俯瞰して見下ろすかのような顔つきが、デンジは少し苦手だ。

「名前さんに魅力がないって言ってるんじゃないよ。名前さんは、男子の中でもデンジ君と寝た。なら自分も名前さんを抱けるんじゃないかって思うのが男子なんじゃないかな」

 吉田は名前を庇った口でデンジを貶した。デンジに抱けるなら自分も抱けるはず、と思うだろうと言いたいのだろう。実際、人間椅子などしているデンジのカーストは最下位である。

「俺を馬鹿にしてんのかテメェ!」

 デンジは凄むが、吉田はつらつらと話を続ける。その視線は相変わらずどこを見ているのかわからない。

「俺だったらデンジ君から話を買わずに名前さんと直接寝る。キミにいくら払えば名前さんを貸してくれる?」

 吉田の視線が初めてデンジの方を向いた。デンジは暫くの間吉田と見つめ合う。吉田が本当に名前とセックスしようとしているのか、それとも話の流れで言っているだけなのか判断しかねる。そもそも、吉田に性欲などあったのか。

「……やっぱこの話はなしだ」

 デンジはつまらなさそうな表情に戻ってその場を離れた。名前を吉田にとられるのを面白くないと思ったからだ。名前にそれほど執着があるのだと、デンジはまだ気付いていない。