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「誕生日プレゼントがある」

 二人で教室の隅の席に腰をかけながら、佐久早は切り出した。誕生日にこうして二人で会っているのだ。何か悪くない話なのだろうということは、わかっていた。

「俺だ」

 佐久早のためだけに用意された静寂に、言葉が落ちる。それは私達の間の空気を切り裂き、私の脳を揺らした。結構な口説き文句なのに、佐久早はまるで平然としている。そのギャップが、私をまた動揺させた。

「抱かせてくれるってこと!?」

 私は一呼吸遅れて反応する。対して佐久早の反応は素早かった。まるで部下を叱る上司のように、音を立てて机を叩く。

「馬鹿か! この間の返事オーケーだって言ってんだよ」

 私は漸く佐久早の机に置いていた肘を自分の体に戻した。変に期待させられた気分だ。

「ならそう言ってよ。漫画みたいな台詞言うから何かと思った」

 きっと佐久早は恋愛漫画など読まないのだろう。付き合うのだったら、佐久早と映画やドラマの話をしてもいいかもしれない。佐久早に映画鑑賞の趣味があるかどうかに関わらず、恋人が誘ったら映画館に来てくれる。佐久早とはそういう奴だ。

 佐久早は私の方へ身を乗り出し、目線を下げて凄んだ。先程のような無意識の圧力ではなく、意識してやっているというふうだった。

「大体お前が俺を抱くんじゃない。俺が、お前を、抱くんだ」

 佐久早は細かく言葉を区切り、強調した。高校生にもなれば、付き合っている男女が致すのは当然のことだ。それでも情事を思わせる言葉は、昼下がりの教室に似合わなかっただろう。妙な色に染まった空気を感じ取ったらしく、佐久早は額に手を当てた。

「もっと普通に返事したかったのに……」

 一応、佐久早にも理想のシチュエーションはあったらしい。返事をするだけなのに、律儀な男だ。

「いい思い出になったよ」

 私がフォローのように言うと、「思い出にするな」と恨みがましい声が飛んできた。