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お願いします、と出された冊子を見て、私は思わず吹き出した。通常友達からのメッセージで賑わうそこには、何の筆跡もなかったのだ。
「影山君の卒アル真っ白すぎない?」
「必要な人にしか頼んでないだけです」
私達は今日で烏野を去る。今は絶賛最後の友達との交流会だ。影山君があまり人間関係の得意な方でないことは知っているけれど、私に頼むくらいなら他の人にもお願いしていると思っていた。私は影山君のアルバムを自分の方へ向けながら、至って平静なふりをして声を出す。
「私は必要なんだ」
「はい、多分東京に行ったら会えなくなるから」
そういえば、影山君は東京のチームへ所属すると言っていた。私は無心にペンを走らせる。この日のために用意した油性ペンはインクの出がよく、アルバムの表面と擦れるたびに小さな音が鳴った。その音を聞いて、まるで体育館のようだと思った。
「これ何ですか?」
完成した私のメッセージを見て、影山君が不思議そうな声を出す。そうやって友達のメッセージに文句をつけるから友達が少ないのだ、と言いたくなるが、確かに私の書いたものはメッセージとしておかしなものだった。
「私の東京の住所」
影山君は息をすることも忘れたかのように、アルバムの表面を見つめている。東京都杉並区、私が住むアパートの名前。
「大学東京なんだ」
私が笑ってみせると、影山君は表情を晴れさせた。先程までの沈んだ表情が嘘のような、子供じみた顔だった。
「告白はやっぱり後でにします」
わざわざそれを告げてしまうところが影山君らしい。大方、今日が最後だからと告白しようとしていたのだろう。告白されたい気持ちはあったけれど、残念ながら今日でお別れではない。私達の関係はまだまだ続いて行く。影山君はアルバムを閉じた。
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