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「俺はいつ死んでもいいように生きてます」

 その言葉は、診察室に程近い病院の待合室に不釣り合いに思えた。先程手当を終え、私が出てくるとアキくんが待っていたのだ。アキくんは大した怪我をしていないというのに、随分思い詰めているようだった。もしかしたら、自分が怪我をしていないからこそなのかもしれなかった。今日は私だけ怪我をしている。

「だからあなたの存在は、正直邪魔なんです」

 私達のそばを看護婦が通り抜ける。その消毒薬の匂いを感じながら、アキくんの言葉を考えていた。私を突き放すような言葉なのに、まるでそういった意思が見えなかった。アキくんは漸く視線を上げた。

「これでわかりましたか」

 まあ、確かにアキくんなら直接的な言葉を避けるだろう。寿命が短いならば尚更だ。アキくんは相手を一人この世に残すことになっても恋愛を楽しむタイプには思えなかった。アキくんは手を組み、頭を垂れた。

「ずるいですね、俺……自分が未練残したくないからってあなたに未練残させて」

 私に未練を残させる、という自意識過剰さが気になった。まるで両思いだと決めつけているみたいだ。アキくんはいつも自分の頭の中で完結していて、勝手に答えを出す。私はアキくんの隣に腰掛けた。

「私は全然アキくんのこと好きじゃないかもよ」

 アキくんは拍子抜けしたように私を見たが、すぐに地面に視線を逸らして力なく笑った。

「はは……ありがとうございます」

 だから目を逸らさずに私を見て、とは言えなかった。アキくんは何を言っても諦めの境地にいるだろう。私は隣にいてもアキくんに触れられる気がしなかった。