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 対戦ゲームで勝てるなど思っていないが、こう連敗するとしみじみと思い知らされる。私はゲーム機を起き、研磨の部屋のベッドに寄りかかった。

「研磨には勝てないなぁ」
「そう? ゲームだけだよ。現実では何一つ勝てない」

 研磨が弱音を口にするのは珍しいことだ。ネガティブな発言ならいつものことだが、研磨は意外と負けず嫌いなところがある。涼しい顔をして勝つまでに影で地道な努力をしていることも知っている。

 何がだ、という私の視線に気付いたのだろう。研磨はゲーム機を見下ろしながら、独り言のように呟いた。

「恋愛。おれは名前に敵いそうにないよ」

 私は頭を整理した。私は現在、片思いも交際もしていない。「名前に敵わない」と言うのは、恋愛力が足りないという意味ではなく、私への想いが実らないととっていいだろう。全く告白しているというふうではないが、絶対にそれだと感じさせる何かが研磨にはあった。

「そういうふうにストレートに言えるなら、もう恋愛強者なんじゃ……?」

 何故か告白された私の方が困窮していた。研磨は呑気にポテトチップを一つつまんでいる。

「おれが告白したところで、名前は意識するわけじゃないよね」

 う、と声が出そうになる。図星だった。研磨は幼馴染で、告白されたとしても私は明日から同じように接するだろう。

「だからどうしたらいいか考えてるんだけど、何人も元彼がいる名前からアドバイスはある?」

 後半がどうも嫌味ったらしいのは、私が他の男とお付き合いしている様子をそばで見てきたからだろうか。一体いつから好きだったのか。自分の中に巻き上がる照れを感じつつも、私は虚勢をはる。

「そうやって本人に聞かない方がいいと思う」
「わかった。じゃあクロに聞く」
「やめて!」

 幼馴染の中でも、クロには知られたくない。なんとなく、私と研磨の男女の部分を見られたくなかった。研磨は小さく笑い、ポテトチップを口に運ぶ。

「冗談。名前の話はクロにもしないよ」

 それが特別だから、ということはわかっている。私は一人いたたまれない気持ちになりながら、視線を床へ下げた。研磨の部屋にいるということを今更になって意識した。