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 待ち合わせ場所に現れた冴を見て、私は拍子抜けした。冴は制服を着ていたのだ。撮影で着ることになったと説明されたが、着替えが面倒だからとそのまま出てくるのはなんとも冴らしい。

「コスプレじゃん」

 私が言うと、冴は首の裏に手をやった。

「俺はまだ十八だ」

 本来ならば冴は高校に通って、友達とくだらない話をしたり、一緒にお弁当を食べたりするような年齢なのだ。その冴が一人異国の地で荒波に揉まれているのだと思うと、急に目の前の人物が可哀想に思えてきた。

「折角だから、外出るか」

 冴がそう言ったのは、私が制服を着ていたこともあるだろう。制服姿で街を歩くなど、世間一般の高校生のようだ。すれ違う人の足は速く、私は置いていかれまいと必死だった。日本は久しぶりのくせに、冴は人の波について行って私を導いてくれた。冴は私の手を握っていた。

「こうしてると普通のカップルみたいだね」

 思わず私はこぼす。冴は振り返らないまま、前に向かって言葉を発した。

「俺達のどこが普通だって?」

 多分、冴はいい意味で普通ではないと言っているのだろう。十代から世界で活躍する人間が普通の範疇に収まるはずがない。けれど、私は世間一般の高校生のように、時差を気にせずに電話したり、気軽に会えるような付き合いをしたかった。私達は普通ではない。そのことが、時折私の心をぎゅうと締め付ける。

 冴と私の言葉の解釈に齟齬があるのはわかっていたが、私は何も言わないでおいた。他人である以上、全てを分かち合うのは不可能だ。私達の間には少しの距離があっていょうどいいのかもしれない。