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 銀色に輝く合金の塊を私は玲王に差し出す。気の利いた言葉は言えないけれど、この瞬間は間違いなく私達の歴史に刻まれるだろう。

「これ。合鍵」
「ん。あと何個作った?」

 私が密かに感動していることも知らず、玲王は至って簡素に鍵を受け取った。与えられるのが当たり前だとでも言いたげな様子だ。自信家なところはなんとも玲王らしい。ただ、何個合鍵があるかなどの細かなことを気にするのは意外だった。

「予備とか考えて四つだけど」

 玲王、親、自分、スペア。裕福ではない私が鍵を作るのはこれが限界だった。無駄に作っても盗難のリスクを高めるだけだし、やたらめったら鍵を配って回っては玲王が機嫌を損ねそうだ。玲王はまたしても当然のような顔をして、手のひらを差し出した。

「お前の以外全部寄越せ」

 私は呆然とする。合鍵を貰うだけでは足りず、作った分を全て保持しようとする強欲な恋人が世にどれほどいるだろうか。スペアも全て玲王が持っているのでは私が困ってしまう。いつも玲王を頼るわけにはいかないだろう。

「全部俺が完璧に管理するし、お前が困ったらいつでも助けに行くからスペアなんざいらねえ。他の奴に渡されるくらいなら俺が全部持つ」

 玲王は我儘とも言えたし、圧倒的な包容力を持つ彼氏とも言えた。私は玲王を頼っていいのだ。というか、玲王は私に頼られることで得意げにしている。私は何も考えずに玲王に身を委ねていればいいのだ。

「親は……」

 流石に親に合鍵を渡さないわけにはいかない。玲王の「全部」の言葉に反応するように言うと、玲王は視線を逸らして頷いた。まるで壮大な計画を練るかのように。

「挨拶しに行くのもいいな」

 果たして、娘の合鍵を全て所持していますという強欲な恋人を私の親は受け入れられるだろうか。きっと玲王なら上手くやってしまうのだろう。私は何も考えなくていい。思考を放棄していくごとに、私は甘くとろける海に落ちていくみたいだ。