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 指定の場所に現れた私を見ると、佐久早は葛藤したような目を向けた。佐久早が選んだ場所は体育館裏なのだ。佐久早が体育館に馴染みがあるということを差し引いても、告白の可能性は濃厚だろう。私は待つが、佐久早は一向に話し始めない。少しぬるくなった風が穏やかに私の髪を揺らした。たっぷり数分間沈黙した後、佐久早は漸く口を開いた。

「俺はイベントごとに乗っからないと告白できねぇような奴じゃない」

 初っ端から否定だ。いや、言い訳と言った方が正しいだろうか。そういえば今日がホワイトデーであったことを思い出した。私は一応仲の良い男子にバレンタインチョコをあげている。佐久早にもあげた気がする。佐久早は今日告白しようとしたが、ホワイトデーに便乗したと思われるのが嫌なのだろう。ならば少し待てばいいのではないか。私の気持ちを見透かしたように、佐久早は言葉を続ける。

「でもお前ほっとくと彼氏作りそうだからな」

 その言葉の節々に恨みがこもっている、気がする。まあ確かに今は卒業シーズンで、旅立っていく先輩に告白する女子も少なくない。ここで私は重要なことを思い出した。佐久早は言い訳をするのみで、私に告白をまだしていない。

「佐久早、私のことが好きなの?」

 私は意図せず上目遣いのようになった。佐久早の背が高いのだから仕方ない。私が上目遣いをしたところで効果は知れていると思うが、佐久早は弱みを握られたように小さく息を飲んだ。

「それを今から言うんだよ!」

 と言ったはいいものの、佐久早はなかなか告白に移らない。このまま佐久早が告白するまで、二人で体育館裏で過ごすのだろうか。それもいいな、と思った。でも少し寒いから、佐久早に上着を貸してほしい。頼んだら、佐久早はどんな顔をするだろうか。