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 好きだ、と彼女は言った。通常喜ぶだろう言葉も、私にとっては負担にしかならなかった。負担だと思ってしまう自分が恨めしい。けどもう私は、変わってしまったのだ。元には戻れない。この先も進み続ける。彼女を連れて行くわけにはいかない。

「悪いけど私は――」

 私はゆっくりと口を開いた。話しながら言葉を探すように。凡庸な断りの言葉は嫌だったが、それしか思いつかなかった。君は特別だけどわかってほしい、など言ったら余計に彼女を苦しめるだけだっただろう。

 私が普通でないように、彼女もまた世間一般の女ではなかった。私が首肯する気配がないと察したのだろう。彼女は覚悟したような瞳になり、私を見据えた。その視線はまるで責めるかのようであった。やめてくれ、と私は思う。もう私を追い詰めるものを増やさないでくれ。

「夏油が付き合ってくれないならまた呪いが溢れちゃうね」

 彼女は、私にフラれたら呪いが発すると言いたいのだろう。そうやって小さなことを積み重ねて、呪力が世界に満ちて行く。そうして私の嫌う世界になる。彼女は私がどうして悩んでいるのかを知っていた。祓うことの繰り返しに私は辟易していたのだ。そして、彼女はその弱点を見事に突いた。

「クソッ……」

 私は彼女にはめられていることに気付きながらも、そうする以外の選択肢がなかった。部屋のカーテンすら閉まっていないことも気にかけず、彼女の上に乗る。彼女は調子の良さそうな顔をしていた。私だけが必死になっているのが馬鹿みたいだった。だが、馬鹿になるほかなかった。彼女の上で揺れて、快感を得て、その先でどうなるのだろう。彼女が呪いを溜めない保証はあるのか。もしかしたら、私はただ普段の鬱憤を彼女にぶつけたいだけなのかもしれない。気付いてしまった可能性をかき消すように、私は彼女の手を床に押し付けた。