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 結果はわかっていた。呼び出した時点で、苗字の顔は曇っていたのだ。俺はそれでも好きだと言った。苗字は泣きそうな顔になった。俺のことを、苗字の親友が好いているからだ。友情と恋愛に挟まれる苗字の人間らしいところが、俺は愛おしくてたまらなくなった。

「やめてよ」

 俺は返事も貰っていないのに、苗字を抱きしめた。苗字は先程あれだけ葛藤するような表情をしていたくせに、抵抗をしなかった。抵抗する気力もなくしたかのような苗字を、俺は抱き続ける。腕の中で、苗字が息を吐く音がした。

「トラブルが起きたら、その時は俺が守ってやる」

 具体的に、どう守るのかは定まっていない。女子同士の人間関係など俺はお手上げだ。でも苗字のためなら女子の敵になってでも割って入ってやろうという気概が俺にはあった。好きな女を守るということは、とても尊いことに思えた。今まさに傷付けているのだと言われたらそれまでだけど、俺は苗字を何からも守ってやりたいと思ったのだ。

「私今へこんでるんだから」

 苗字は湿っぽい声を出した。もうすぐ泣き出してしまうかもしれない。俺のせいで泣くのか、友達のせいで泣くのか。多分両方だ。

「じゃあ今は付き合わなくていい」

 俺は慰めるようなことを言って、てんで引き下がることはしなかった。俺は苗字と付き合いたい。俺に告白されて葛藤すること自体が、俺を好きな証拠ではないか。苗字がそれで苦しんでもいい。俺のせいで、苦しんでほしい。苗字の感情の深い部分は全て俺に起因してほしい。そんな歪んだ独占欲を、俺は持ち合わせている。