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「ハァ? 好きな人にチョコを渡してほしい?」

 万事屋にて私が依頼内容を告げると、銀時は間が抜けた声を出した。

「確かに万事屋って何でもやるけどさぁ、何でチョコも貰えないような男が恋のお手伝いなんざ悲しいことしなきゃいけないわけ」
「報酬はお支払いします」
「まぁ仕事ならやるけどさぁ……誰よ」
「それはご案内します」

 こうして神楽ちゃんと新八君とは別に、私はバレンタインチョコを届ける旅をすることになった。

「大体人に直接モノ渡せない奴は小学生みたいなもんだからね。絶対上手くいかねぇよ。神楽に告白してきた奴もそうだったし」
「上手く行くかどうかはやってみなくてはわかりません」

 私が銀時を引き連れてやってきたのはかぶき町の中でも特に治安の悪い裏町だ。「ここなの? この辺住んでる奴は絶対ヤバいからやめた方がいいって。絶対パンツに穴空いてるかんな」と言う銀時を無視し、私はお目当ての人物を見つける。

「桂さん!」
「えっヅラなの!? いやお前パンツに穴は空いてないかもしれないけどあの堅物だけはやめとけよ! バレンタインとか知ってんのか?」

 桂さんはエリザベスを引き連れ私達に向けて手を挙げる。チョコレートを渡すと、素直に礼を言って受け取った。

「ありがとう名前殿。確かに受け取った」
「どういたしまして」

 横で銀時は頭を掻きながら小言を零していた。

「ヅラなのかよ……つーか天人文化知ってんのかあいつ」
「何言ってるんですか? これからまだまだ行きますよ」
「これ義理チョコ!? 俺全部付き合わされるわけ!?」

 混乱した様子の銀時を引き連れ、私は真選組、柳生家などを回る。真選組は安全面から食べ物は受け取れないと言うので目の前で銀時がチョコを食べ始めた。見せつけるかのような行動に真選組を追われ、私はまた近所に配り始める。

「つーかこれ全部義理じゃん。俺いなくてもよくない? 目の前でバレンタイン見せつけられてるだけだろ」

 日も暮れかけた頃、銀時はすっかり小さくなった私の包みを見て言った。残るチョコはあと一つだ。渡す人は決まっている。

「最後は本命です」
「マジ!? 誰!?」
「はい」

 目の前の銀時へチョコを差し出すと、銀時はぽかんとした表情でチョコを見つめた。

「万事屋の社長さんへ、本命チョコを届けてください」

 まさか私が銀時に気があるなど思ってもみなかったのだろう。この調子では依頼とかこつけて今日一日私が銀時とデートをしたことにも気付いていないに違いない。人の恋愛ごとには騒ぎ立てるくせに、自分の恋愛に弱いのは変わっていない。

「……あの、お返しは新八経由で渡してもいい?」

 チョコで口元を隠しながらそう言う銀時に、私は銀時に言われたままの言葉を返してやった。

「人に直接モノを渡せない奴は小学生みたいなもんですよ」