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「陽太郎と拾った」

 ヒュースが差し出したのは、四つ葉のクローバーだった。私は思わず土手で地面を探し回っていた時のことを思い出す。誰もが幼少期にそうしていたように、ヒュースも幸運のクローバーを探していたのだろう。私は素直に受け取った。案外、可愛らしいところもあるものだ。クローバー探しは陽太郎に付き合っていただけで、クローバーそのものはどうでもよかったのかもしれない。でも懐かれた証拠のような気がして、私は自室にクローバーを飾った。

 それからだ。ヒュースの行動が一変した。いや、すぐに見てわかるほどではないのだが、私にははっきりと感じる。

 例えば、みんなでご飯を食べる時必ず私の横を陣取る。そして甲斐甲斐しく、「苗字に醤油をとってくれ」「苗字の分はあるのか」と言うのだ。私はそれくらい自分でできるし、ヒュースに目をかけられる筋合いはない。どう言ったものかと考えていると、今度は私を優しく見守った。

「寒くないか」

 男性が女性の冷えを心配するのは、そこまで不思議なことではない。しかし少し前までのヒュースは、誰が冷えようが知ったことではないという様子だったのである。

「何? どうしたの?」

 私が問うと、ヒュースは平然と「お前はオレの女だろう」と返した。なおもわからずにいる私に、ヒュースはクローバーのことだと告げる。

「あれ告白だったの!?」
「求婚だ」

 私の頭の中がぐるぐると回っている。ヒュースの国ではクローバーを渡すことが求婚なのだろうか。ならばアフトクラトルの固そうな顔をした近界人はみんなクローバーを渡しているのか。だとしたら少し面白い。

「幸せになれるのだろう」

 ヒュースがぽつりと告げた。確かに、クローバーは幸運の象徴だ。幸運の象徴をあげるということは、幸せになってほしいという意味だとヒュースは思っているのかもしれない。

「それは迷信で……」

 私が言いかけると、ヒュースの眉が下がった。ヒュースはヒュースなりに、等身大の愛情を注いでくれたのだ。私は頭を掻くと、溜飲を下げるような気持ちで顔を上げた。

「ありがとね」

 ヒュースの顔に温もりが宿る。結婚したと思われているのは面倒だけど、まあいいか。