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彼との出会いは店先でのことだった。毎月、決まった日にちに、彼は花を買い求めた。最初は考え込むようにして選んでいたが、そのうち私にアドバイスを求めるようになった。二言程度のやりとりの後、唐突に彼は言った。
「君、付き合わない?」
いくら何でも突然すぎる、と思った。それでも受け入れてしまったのは、ここで彼を突き放したら彼が一人で苦しむのではないかと思ったからだった。私は頷いた後、彼の名前を聞いた。五条というようだった。名前も知らない人と付き合うのかと、今更ながらおかしくなった。
五条さんは文句のつけようのない彼氏だった。送り迎えもきちんとしてくれるし、時折冗談を言って私を笑わせた。でも、その言葉の一つ一つに、心がこもっていないと感じた。完璧な五条さんの欠点を唯一見つけたのだと思ったら面白くなった。もしかしたら、五条さんは隠す気がないのかもしれなかった。
「五条さんって私のこと好きじゃないですよね」
仕事帰り、迎えに来た五条さんと並んで歩く。五条さんは車道側を歩き、向かいから人が来ると私を抱き寄せた。
「そうだよ」
隠しもしなかった。私の価値は五条さんにとってその程度のものなのだろう。大して落ち込まない私もまた、五条さんを本気で好きだとは言えなかった。
「じゃあ何で付き合おうと思ったんですか?」
五条さんは少し黙り込んだ後、ぽつりと話し始めた。五条さんらしくない、頼りない声だった。まるでそうしていることが正しいことなのかわからない、と言うように。
「傑が繋いでくれた縁なのかと思って」
スグル、と私は口の中で繰り返す。目の前の信号機が赤になる。五条さんが止まる。
「傑がこの世を去る代わりに君を寄越したんだと思ったら、なんか離したくなくなっちゃったんだよ」
恐らくスグルとは五条さんがいつも花を買っている相手なのだと思った。毎月同じ日に買うのは、月命日だ。多分もう死んでいる。本当はどうでもいい私と付き合うくらい、五条さんはスグルさんに囚われているのだと思った。少し、可哀想だと思った。
「ま、あと少し付き合ってよ」
五条さんはようやく彼らしい笑みを浮かべた。それを見たことで、五条さんの浮かべている表情は全て作り物だったのだとわかった。私に五条さんは救えない。こうしているのが、正しいことなのかわからなかった。
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