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 冴が帰国した。成人してからというものの、広告などの仕事で頻繁に日本へ来るようになった。今回もその一部だ。私は冴と飲む約束をし、とりあえず生を頼む。冴はウーロン茶を注文していた。身体には人一倍気を遣っていたが、お酒を断つほどではなかったはずだ。

「何で冴はお酒飲まないの?」

 私はお通しに箸を伸ばしながら言う。冴はお通しに手をつける気がないようで、テーブルに頬杖をつきながら言った。

「あんまり酔うと勃たねぇだろ」

 恋愛めいたことをするなら、もう少し駆け引きや隠すことを覚えてほしい、などと思ってももう無駄だ。今更私達の間に恋愛感情があることを隠すつもりはないし、かといって告白もしない。セフレかと言われれば、もっと特別な、唯一無二の存在なのだ。

「持ち帰る気でしょ」
「問題あるか?」

 冴はつまらなさそうな視線を寄越す。今更私を抱くことに大した感慨を持ち合わせていないらしい。

「あるわ! どうやってスペインから帰るのよ!」

 これで冴が日本在住ならいいが、冴は明日にはスペインに帰る。スペインにお持ち帰りなどされたらたまったものではない。冴なら本当にやってしまいそうだ。

「帰らなければいい」

 冴がぽつりと発した。アルコールのない、ウーロン茶を口へ含む。

「好きなんだろ」

 冴の言葉一つ一つが酔って発されたものではないと感じるごとに、新鮮なときめきを感じる。冴との付き合いは長いのに。いや、ちゃんと付き合ってはいないけれど。

「冴ってなんていうか本当に、子供だよね……」
「それは後で確かめろ」

 冴は言って箸をとった。簡易的なドアが開かれて、注文の刺身が運ばれてくる。私は今日、また冴に流されてしまうのだろうか。流されたい、と思っている自分の存在に少し驚いた。