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「試合観に来ねぇの」
「用事があって……」
「フン、まあいいけど」

 というやりとりをしたのが一週間前のことだ。凛は頷きながらも、どこかで納得いかないという表情をしていた。私に見られたところで強くなるわけでもないだろうに、凛はいつも私に観戦を求める。だが私も、毎度観に行けるわけではないのだ。とりわけ今回は、大事な役目があった。

 ビールサーバーを背負い、観客にビールを勧める。売り子に求められるのは情報処理能力や計算能力ではなく若さと愛嬌だ。それは階段の段差から見えてしまいそうなほど短いスカートが証明している。仕方ない。私だって、サッカーと関わってみたくなったのだ。

「おい、あれは何だ」

 試合後、凛はすぐに私に電話した。祝勝会や打ち上げは大丈夫なのかと言いたくなるが、凛はどうでもいいのだろう。私のことはどうでもよくないのだと思うと、少しくすぐったくなる。

「凛って視力いいんだね」
「とぼけんな、何であんな援交女みたいな格好してやがる」

 援交女、そのあまりのワードに一瞬反応が遅れる。凛に近付きたくてやったことなのに。

「失礼な! ビール売ってるだけで怪しいことは何もしてないよ」

 事実、私がやっていたのはただの売り子である。いやらしいおじさんというのもいたはいたけれど、そんなものファミリーレストランでアルバイトをしようが遭遇するものだ。

「二度とすんな。関係者席のチケットやるからそこで観ろ」

 凛はそれだけ言って電話を切った。関係者席に入ることになったら、私は糸師凛の何だと周りに説明すればいいのだろう、と少し考えた。