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 有給一覧画面を見て私は眉を顰めた。五月十五日。有給申請者、苗字名前。赤葦京治。

「毎回私と有給被らせるのやめてくれませんか?」

 私は遂に本人へ抗議した。何もこれが初めててはないのだ。赤葦さんは私が有給を入れると必ず同じ日に有給を入れてくる。勿論、プライベートの繋がりなどない。

「どうしてですか?」

 赤葦さんは知らぬ存ぜぬを貫き通すようだった。私は声を顰める。

「社内で噂になってるんです。私達が付き合ってるんじゃないかって」

 有給取得者は誰でも見られるのだ。そりゃあ噂になるだろう。世話好きなパートのおばさんだけでなく、同期達の中でも話題になっていると聞いている。

「別にいいでしょう。現にあなたはそのおかげで営業部の魔の手を逃れている」

 平然な顔をして語る赤葦さんを私は信じられない目で見た。赤葦さんは付き合っていると思わせる以外の目的でやっていたのだ。

「わざとやってたんですか?」
「自然に被る方がおかしいかと」

 しれっと言うくらいなら付き合っているという噂の方をなんとかしてほしい。私は喜べばいいのかわからなくなった。第一、営業部が私を狙っているという話など知らない。

「で、次の有給どこへ行きます? おすすめの喫茶店があるんです。もしあなたにお友達との外せない約束があると言うなら遠慮しますが、家でダラダラしているだけなら遥かに有意義だと思いますが」

 私は言葉に詰まった。私の有給は予定があるからとったわけではないことを見透かされたようだった。赤葦さんの言う通り、家で寝ているよりはいい過ごし方ができるだろう。

「有給足りなくなっても知らないからね」
「ご心配なく。結婚休暇がありますので」

 先程から隠していないが、この人は私のことが好きだよな。けれど今それを確かめると調子に乗りそうな気がして、私はノータッチを貫いた。デートの約束をしてしまったけど、まあいいか。