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 体育祭の借り物競走で、研磨は私を指名した。手は繋がなかったけれど、全校生徒が見守っていたゴールだった。私もまた、研磨の顔を期待した瞳で見た。ゴールした後、研磨が握っていた紙に書かれていたのは「友達」だった。

「告白の返事、借り物競走が答えだってことだよね?」

 体育祭から数日後、私は研磨の教室に行った。告白をしても借り物競走で一緒に走ってもこうやって普通に話せるということが、私達の関係の奇妙さを示しているかもしれなかった。心なしか、クラスメイトから好奇の視線を向けられている気がする。私達がしているのは、全く浮かれた話ではないというのに。

「おれ友達とかいないし……そういう時に頼れるのが名前だっただけ。名前ならからかわないし、信用できるから」

 研磨は私を振りたいのか、私を特別な仲にしようとしているのかわからなかった。研磨に友達がいないのはまあ、想像できる。でもいくら健全なものであろうと、全幅の信頼を寄せられたら少しは期待してしまうものなのだ。

 結論を急かすように研磨を睨む。研磨は怯えたように視線を逸らした。一応、私が告白した身だ。

「そもそも借り物競走で男女が一緒にゴールする時点で恋愛を疑ってよ」

 やたらと早口で、小さな声で語られた。研磨に直接的な言葉で返事をしろという方が無理だろう。つまりはそういうことだ。私は照れ隠しに、腕を組んで研磨を見下ろした。

「研磨もそういう知識あるんだ」
「そりゃあ」

 研磨は、私が思っているより俗物的な思春期の男の子なのかもしれない。