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 うちの会社は御影コーポレーションと付き合いが深かった。正確には、御影コーポレーションの子会社と、だ。そんな力関係も今日は改善されたようで、御影コーポレーションの子会社はごますり顔で私達にへつらっている。先日彼らが犯したミスのせいだ。直接業務を増やされたわけではない私ははあ、とかはい、とかを言ってやり過ごしていた。それを許されていないと感じたのか、彼らは最終兵器とばかりに色紙を出した。御影コーポレーション御曹司、御影玲王のものだ。確かに有名ではあるが、それをお詫びの品として持ってくるのはどうなのだろう。第一、私は御影玲王のミーハーなファンではなく元同級生である。

 ここで受け取らなくてはさらに面倒なことになってしまうので、私は素直に受け取った。安堵した顔のビジネスマンがハンカチで汗を拭いた。私はバッグに色紙を詰めながら、これをどうしよう、と思った。

 御影玲王は人気サッカー選手である。実力とルックス、それから類稀なる出自。アイドルのように扱われているとも聞く。規格外に高い金額をつけなければ、フリマアプリで売るのも自由だ。そう言い聞かせ、私は帰宅後フリマアプリに出品した。いいねが何件かつき、ものの十分で売れた。私は御影玲王に対する認識を改めなければならない。梱包をして、コンビニに持ち込む。少し心は痛んだが、どうせ取引相手も色紙に大して思い入れはないだろう。御影玲王だって、学生時代少し話したくらいだ。

 発送通知を送って数日待つ。ステータスが配送済みになっても、受取評価は来なかった。そろそろ問い合わせてみるべきだろうか。そんなことを考えながら家のドアを開ける。視界を遮る大きな影が一つ。見上げると、恐ろしく整った顔が笑っている。

「見つけた」

 どこからどこまでが御影玲王の仕組んだことだったのか。取引相手が失敗したこともそうだったのか。そもそも、御影玲王は数年越しに会いたいと思うほど私に思い入れがあったのか。疑問は色々あるが、一番に思ったのは「終わった」だった。多分、今日の取引相手との商談は行かなくてもいいことになっているに違いない。私は後ろ手にドアを閉めた。