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 俺は引きこもり続けている当人の部屋のドアを開けた。鍵はかけておらず、小さな音を立てて簡単に開く。家主は、ベッドの上で丸くなっていた。

「そろそろ学校来いよ」

 研磨はじとりと視線をこちらへ寄越す。俺はベッドの上に座り込んだ。反動でベッドが沈む。研磨は、自分が学校の廊下で名前を振り向かせた際名前のブラウスのボタンが飛んでしまったことを気にしているのだ。

「そもそもブラ見られた名前が元気に登校してるんだぞ? 研磨は何も見られてないんだからいいだろ」

 ある意味、律儀すぎるとも言える。細かいことを気にするなと言われて素直に聞ける人間ではないだろう。

「変態だと思われるのが嫌」

 研磨は一度出した顔をまた布団に戻した。幼い頃からいつか不登校になるのではないかと思っていたが、まさかきっかけがこんなこととは。いや、「こんなこと」という言い方は名前に失礼だろうか。

「男はみんな変態だって。研磨だって性欲とかあるだろ?」
「そういうのやめてくれる? おれ極力見ないようにして生きてるから」

 それは名前や女子の下着を、ではなく、自分の性欲を見ないようにしているという意味なのだろう。どれだけ素朴な奴でも高校生男子となれば性欲はあるのだ。だから研磨が変態だという周りの目は、まあ間違っていない。けれど研磨がそれに耐えられるかどうかは別の話だ。

「まあ最悪お前が学校来なくてもいいけどさあ、名前には謝っとけよ」

 俺は研磨の布団を軽く叩いた。研磨は布団の中で少しうごめく。思春期真っ只中の少年少女を導いてやるのも俺の務めだ。俺は勢いをつけて立ち上がった。