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「高杉は死んだ」

 虚との戦いが終わった後、酒を口にしながら銀時は無表情に言った。

「そっか」

 私もわかってはいた。ターミナルから脱出してきた人の中に晋助がいなかった時から、いやその前から、晋助は死ぬ覚悟なのではないかと思っていたのだ。銀時は「ごめん」とは言わなかった。攘夷戦争後晋助に置いて行かれた私にそう言って、泣かれたのを覚えているのだろう。あの時の私は晋助に置いて行かれたことではなく、晋助を護れなかったと言って銀時が謝るのが悲しかった。それから、私は晋助を待ち続けた。もう犯罪者であることはわかっているし、とっくに私など忘れていると思う。それでもまた松下村塾の頃のように笑って話せないかと、一人気を揉み続けていたのだ。

 私がかぶき町で晋助を待ち続けられたのは、銀時が私を守ってくれていたからだと思う。私は、晋助と付き合っている時から銀時が私のことを好きであることを知っていた。気付いていて、知らないふりをした。そんな狡い私を銀時は忠犬のように守り続けてくれた。今も好きなのか、昔馴染みとしての情が残っているからなのかわからない。もしかしたら、晋助を守れなかった罪滅ぼしなのかもしれない。それでも晋助が死んだ今、私と銀時を繋ぐものは薄くなったように思えた。

「ありがとう、銀時」
「……よせよ、礼を言われるようなことはしてねえや」

 多分銀時は、今晩私を抱かない。未だに晋助の影を感じているからだ。銀時にとって私を抱くことは、最も心苦しいことなのではないだろうか。

「お前これからどうすんの」
「……今まで通り仕事するよ。晋助がいないのなんて、昔からなんだから」

 私は震える手をお猪口に伸ばす。その手を、銀時が掴んだ。

「銀時?」

 銀時は何も言わず私を見ている。その瞳の真剣さから、銀時が何を言おうとしているのか察してしまった。

「駄目だよ。私達が一緒にいたら、私達は永遠に晋助のことを、松下村塾のことを思い出して苦しむだけなんだよ。私達は、一緒にいない方がいい」

 銀時はさらに力を強くして、自分の方を向かせた。そしてすっかり大人になってしまった表情で私を見た。

「苦しむのなんてどこでも同じだろ。俺もお前も、一生高杉と松陽のことで苦しみ続けるんだよ。この苦しみからは逃げらんねえ。だったら俺は、好きな奴の隣で苦しみたい」

 私は力が抜けて、笑いが零れた。

「銀時、いつの間にそんなに素直なこと言えるようになったの」
「最後まで素直になれずに女待たせてたどっかの誰かさんを反面教師にしたんだよ」

 私は銀時の手を握った。私達は生き残った。生き残ってしまった。苦しみ続けるなら、せめて同じ苦しみを分かち合える人の隣がいい。たとえ私達の関係が、恋仲でも、ただの幼馴染でも。一生過去を背負っていく証として、銀時と私は同時に酒を飲んだ。