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 佐久早は部活へ行こうとする私を捕まえた。最近距離をとっているというだけでそうするのが意外だった。まるで私と佐久早は親しくしているのが正常だと言っているみたいだ。佐久早など、人と関わるのが嫌いだとでも言いたげな表情をしているのに。

 廊下の隅で立ち止まったまま、私は佐久早の視線に射抜かれる。「どうしてだ」やはり佐久早は、私を責めているようだった。

「友達が佐久早のこと好きっていうから」

 本来ならば言ってはいけなかっただろう。私の友達という情報から、佐久早が気付くこともありえる。それよりも佐久早と拗れたままでいる方が嫌だった。佐久早は丸い瞳を開き、私を覗き込んでいる。

「お前は他人の好意にいちいち振り回されるのか」
「そりゃ友達だもん」
「言ったな?」

 佐久早は腕の力を強くした。本気は出していないのだろうけど、普段佐久早が私を小突いたりするような力ではなかった。私の血肉は圧迫された。どくり、と胸が鳴る。

「じゃあ俺の好意にも配慮しろ」

 佐久早は脅迫するような視線のまま言う。

「俺とお前は『友達』なんだからな」

 強調された言葉は、自嘲めいた響きを含んでいた。佐久早は私を好きなのだ。その気持ちに配慮しなかったとしても、私はもう佐久早の気持ちを知ってしまった。元には戻れない。佐久早とはこんな強引な人だったかと、考えを改めずにはいられない。