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 世一の家に行った時、私は映画でも見て過ごすものだと思っていた。しかし世一が手にしたのはテレビのリモコンではなく、一枚のDVDだった。今時珍しいものだ。世一が配信にないものを見るほど映画好きとも思えない。この時点で、私はどこかで悪い予感がしていたのだと思う。そしてそれは現実になった。

 暗い画面の中で、白い肌が浮き上がって見える。二人の体が絡み合い、反り、絶えず結合する。映像の中にいるのは紛れもなく私達だった。もっとぉ、きて、そんな甘い言葉が私の口から響く。私は凍りついているというのに、隣にいる世一は平然としていた。まるでペットのホームビデオでも見るかのような表情で、自分達のセックス動画を見ていた。

 やがて私の体が大きく跳ね、私が達する。世一も果てる瞬間、顔がちらりと見えた。私だけではない、世一も映ってしまったのだ。

 世一はリモコンで再生を停止した。私は腰を浮かせたまま画面の中で止まる。

「これが世に出たらお前は男共のオカズ、顔が知れてる俺は大問題だ。わかるな?」

 世一に言われて私は必死に頷く。そもそも、撮られていること自体知らなかった。有名人である世一がそのようなリスクのあることをすると思わなかったのだ。一体何故そんな危ない橋を渡るのだろう。世一の顔がずいと近寄る。

「俺達は運命共同体なんだよ。今そうなった」

 それは死刑宣告のようで、厳かな愛の言葉でもあった。世一の動機がやっとわかった。私を脅したかったのだ。脅しの内容に、自分のサッカー人生を終わらせることまで含めたかったのだ。何故なら、その方が私は滅茶苦茶になるから。

「だから言うことを聞いてくれるよな?」

 耳元で聞こえる地を這うような声に、私は必死に頷いた。私は世一に命令されたら、麻薬の運搬でも死体処理でも何でもやってしまうだろう。だって世一を守るためなのだ。世一は満足したように息をつくと、「少しは聞き分けがあるじゃん」と頭を撫でた。私の背筋は凍りつくのみだった。