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「結婚するぞ」

 私は聖臣を見た。聖臣は愛に浮かれた表情というより、険しい表情を浮かべていた。恐らくは、この間女性スタッフと大人数で飲んでいたところを週刊誌に嗅ぎつけられたせいだろう。しかしそれとどうして結婚が結びつくのか、私にはわかったものではない。

「俺は他の女と噂立てられるのなんざ死んでもごめんだし一般人の彼女を公表するのもおかしい。結婚報告しかねぇ」
「それだけで結婚するの!?」

 要するに、聖臣は滅多な報道をされる前に自分には本命がいると公表しておきたいのだ。それで恋人との仲を言うのも変だから、結婚という形にしたいと。私はロマンチストではないが、結婚は愛の証明であると思っていた。聖臣の中にあるのは、マスコミへの憎悪だ。聖臣は言い訳のように口を開く。

「契約結婚なんざよくあることだろ」
「愛があるからややこしくなってんだけど」

 これがただの契約結婚であれば私はすぐに頷けただろう。曲がりなりにも両思いであり、何年も付き合っていたからこそ、簡単には結婚できない。したくない、という方が正しい。

「じゃあお前もう俺の熱愛報道が出ても傷付くなよ」

 聖臣の言葉に、私は頼りない視線を床へ向ける。

「信じてるもん……」
「それでも落ち込んでんだろ」

 聖臣が結婚しようとしているのは自らの保身のためではなく、私のためなのだと今気付いた。聖臣に熱愛報道が出たら、嘘だろうと私は気にする。

「お前が落ち込んでたら俺も落ち込むんだよ」

 聖臣は言い訳のように言ったが、それは今日一番の愛の言葉だった。結婚しよう、と言われるよりも嬉しかったかもしれない。ただ、聖臣にそれを言うのは癪なので黙り込んでおく。もう少し、私のことだけを考えていればいい。