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 何で私を選んだの? と尋ねた。バレーボールより優先されたというわけではない。しかし常にバレーボールを大事にしている元也が、明らかに遊びではない――付き合おうものならそれなりの仲までいかなければならない幼馴染の私の手をとったのは、簡単なものではなかったはずだ。元也は私の方を見ようとせずに、前に歩いている人を眺めた。

「バレーはいつかできなくなるけど、名前は一生俺のこと好きでいてくれるじゃん」

 私達は待ち合わせに成功したくせにそこから歩き出そうとしなかった。待ち合わせ場所に座って、通りゆく人々を観察していたのだ。今更完璧なデートコースがなければ機嫌を損ねるような仲ではなかった。

「なんていうか、コスパがいい?」

 元也は笑った。元也は優しいようでいて結構酷いよな、と思う。でなければ私をずっと捕らえたままの仮定をしないだろう。

「意外。ずっとバレーやるものだと思ってた」

 私は手元に視線を落とした。待ち合わせ時間からは十分経っている。そろそろ映画に間に合わなくなってしまう。でも、映画館の雰囲気に呑まれれば私達は踏み入った話をできなくなるだろう。

「はは。俺は超人なんかじゃないよ。もしかしたら聖臣は一生バレーしてるかもしれないけど」

 誰にでも限界は来るというのに、元也の従兄弟の聖臣くんがバレーを続けているところはなんとなく想像できる。元也がバレーを引退しているところは想像できなくないけれど、その隣に私がいることは難しいと思っていた。

「こたつでダラダラテレビ見るとか、そういうのは名前とやりたいなと思っただけ。この話もうよくない?」

 元也は目尻を下げて立ち上がった。ダラダラするのは私としたい。バレーボールは、聖臣くんとしたい。あくまで私は元也にとっての全てのナンバーワンに選ばれたわけではないのだと自戒しながら、元也のあとを追った。元也は「そうだった」と忘れたように手を繋いだ。