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「見事に奪われてるねぇ」
「お前がとろとろしてるからだろ」

 式が終わった後の佐久早は、ギャンブルに負けた後の廃人かと思うほどの格好をしていた。私達はまだ高校を卒業したばかりで、ギャンブルには程遠い存在なのだが、ボタンどころかジャケットすらなくなっている様子を見ると酷く疲弊しているように思えた。あれだけ対人間のコミュニケーションに難がある佐久早のことだ。余程苦労したのだろう。佐久早は私を見て安堵したかのような表情を浮かべたが、私もまた佐久早を困らせようとしていた。

「私が貰うものなくなったりして」

 私は悪戯に笑う。私は佐久早にボタンを貰う約束もしていなければ、貰って当たり前の立場でもない。こう言ったのは、佐久早をおちょくりたかっただけだ。万が一、佐久早が何かをくれると言うならば喜んで貰っただろうけれど。

「お前には中身をやるからいい」

 佐久早は疲れた様子で言った。私は目を爛々と輝かせる。

「カラダってこと?」
「心だよ!」

 その突っ込みぶりが普段の佐久早からは想像できず、私は声を上げて笑った。佐久早は呆れたような顔をしていた。私はもう誰もいなくなった体育館前をくるりと歩き回る。明日からは会えなくなるかもしれないのに、佐久早の一言で私は浮かれていた。

「じゃあ告白してみてよ。聴きたいなぁ、佐久早の告白」

 私は期待するように佐久早を見る。佐久早は怒るかと思ったが、意外にも乗り気のようだった。

「誰にも言ったことないんだからな」

 佐久早が私の言葉に乗っかるなど、三年間でこれだけだ。いや、これから先はもっとあるのかもしれないけれど。私は知らずの内に、佐久早とのこれからを思い描いていた。