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 凛の趣味は言わずもがなホラーだ。私も一度観たことがあるが、とても凛のように楽しむことはできなかった。凛はそんな私を面白がっているのか、また平然と誘ってくる。

「観るか?」

 ソファの背にゆったりと回された腕は、その中に収まれという意味なのだろう。凛と体を寄せることは十分に魅力的であるが、私はその後が怖かった。

「お風呂とかトイレが怖くなるから観ない」

 凛は食い下がるそぶりもなく、素直に腕を体のそばに置いた。

「じゃあ俺がついて行ってもよくなったら観にこいよ」

 私達はまだ、一緒にお風呂に入れるような仲ではない。セックスだって、この間挿入に至らなかったものを一度したきりなのだ。その状態で凛とお風呂やトイレを共にするのは無理がある。勿論、凛以外に頼むわけにもいかない。

 この日の出来事を胸にしまったまま、私達は月日を共にした。痛みでできなかった挿入もできるようになり、少しずつセックスの気持ちよさというものもわかるようになってきた。もうあまり照れはない。つまり、お風呂に一緒に入れるのだ。

「凛、ホラー映画観たい」
「別にいいけど、珍しいな」

 凛は忘れているようだった。私はホラー映画などに微塵も興味がない。凛とお風呂やトイレに入りたいだけなのだ。私達の距離を縮めたい。凛が自分で言ったことを覚えていないのが、余計に私の焦りを加速させる。

「トイレとか一緒に入ろうって言ってんの!」
「ばっ……! 痴女かお前!」

 私の言葉はどうやらはしたないものとして受け止められているようだった。お風呂と言えばよかったのかもしれない。トイレを共にするというのは、確かに結構尖った性癖だ。

「凛が言ったんだから!」

 私が言い訳のように叫ぶと、珍しく困惑している凛の姿が見えた。そうやって、私に振り回されればいい。