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 万事屋の居間には、桂が姿勢を正して座っている。普段何かと銀時の元を訪れることが多い桂だが、今日ばかりは依頼に来たようだ。そのあまりの剣幕に気圧されながらも、新八が口を開く。

「で、どうしたんですか桂さん」
「それは俺と名前殿が睦み合っていた頃……」
「長そうな上に嘘の回想だよ!」

 桂がごほん、と咳払いをする。桂は順序正しく話した。所謂エロ本を買いたかったこと。しかし身分証明書がなくては買えないこと。指名手配中の桂に身分証明書は持てないこと。

「だから買ってきてくれと頼んだのだ」

 まるで戦の後のような雰囲気をまとわせて、桂は目を閉じる。その横顔に蹴りが入った。銀時だ。

「好きな女にエロ本パシリする奴があるかァァア! 何考えてんだオメー!」

 銀時もマダオであるが、女性への気遣いはできるということなのだろう。少なくとも女性にエロ本は買わせない。新八と神楽の二人は目を細めて桂を見ていた。

「勿論女性にそういったことへの抵抗があるのは承知の上だ。あわよくば恥じらった名前殿が『私で我慢して(桂裏声)』と脱ぎだすことを……」
「んな展開あるわけねーだろ! そもそもお前ら付き合ってんの!?」

 銀時は核心に触れた。確かに、名前と桂は仲がいい。付き合っていると言われても違和感はないだろう。しかし言葉にして、恋人だと言っているところは見たことがない。

「む、そうだな。これから付き合おうと思う」
「何でお前が決めんだよ! お前が告白しろ!」
「仕方ない、銀時がそこまで言うなら……」
「俺のせいにすんじゃねーよ」

 逃げの小太郎、という名前が懐かしい。桂は慎重派であるということだ。桂は晴れやかな顔で立ち上がった。

「それでは行って参る。よい報告ができるといいな」

 その様子はまさに憑き物が落ちたかのようで、見ているこちらも胸がすいた気持ちになる。万事屋で相談をしたかいがあったというものだ。

「……お代は?」

 神楽がぽつりと呟いた。相談も一応、有料なのだけど。今度回収することにして、銀時は椅子にもたれた。恋のキューピッドなど、銀時には似合わないことだ。