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 使用場所が交代制の部活は放課後に待ち時間がある。私が教室に残っているのはそういったわけだ。同じく教室にいる佐久早も体育館待ちのようで、彼は暫く自席に座った後私の前の席へと腰を下ろした。

「話をしろ」

 佐久早は私に何を求めているのだろうか。面白い話は特になかったので、今私の心中を渦巻く話をした。飼っている犬の具合が悪いこと。もしかしたら、死んでしまうかもしれないこと。顔を上げれば、佐久早は困惑したような表情でこちらを見ていた。

「馬鹿、もっとくだらない話でいいんだよ」

 私は疑問に思う。佐久早と私は、くだらない話をする仲だっただろうかと。ましてや佐久早の方から、私のくだらない話を聞きに来るだろうか。それではまるで、私と話すことが楽しいみたいだ。

「くだらない話をしに来たの?」

 私が尋ねると、佐久早は視線を逸らして窓の外を見た。グラウンドからは、野球部のかけ声が聞こえている。

「俺にはそれがないとどうも調子が出ないらしい」

 佐久早にとって私は余程大事なファクターらしい。私は驚きつつ佐久早を見た。佐久早は視線を戻し、私と目を合わせた。

「だから俺と喧嘩するなよ」

 何故上から目線なのかわからないけれど、私は頷いた。思えば話をしろというのもかなりの上から目線だ。私を賑やかしか何かと思っているのかもしれない。でも、佐久早はその賑やかしがいないと調子の出ない素直な男の子だ。私が小さく笑うと、恨みがましい視線がこちらを向いた。