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「つまんないの。ショックでストパーかけるとかすればいいのに」
「それが昨日別れた彼氏への態度か」

 俺達は放課後の教室に溜まっていた。仕方ないだろう。体育館部活が始まるまでには時間があるのだ。そういうわけで、昨日別れたばかりだというのに同じ空間にいることを余儀なくされている。だからと言って普通、話しかけたりするだろうか。俺のことなど何とも思っていないのか、と思いかけて、別れたのだから当たり前か、と思い直す。

「私のこともサラサラストレートだから好きになったんでしょ」

 何で今更、好きになった理由を言わせるような態度をとるのだ。俺はやきもきしつつも、素直に言ってやるようなタマではない。

「そんな甘っちょろい理由じゃねえ」

 視線を逸らした俺に、名前が追撃する。

「じゃあ何よ」

 語らなければいけないのだろうか? 名前本人に? 好きになった理由を、別れているのに?

 名前は俺とよりを戻したいのかと考えた。でもそれはないだろう。別れたいと言い出したのは名前なのだ。どうしてこんな、別れて数ヶ月経ったような態度でいられるのだ。

「お前少しは気まずいと思えよな。気まずくさせてやろうか」

 俺は脅かすつもりで言った。しかし名前は主人の餌を待つ犬のような顔で俺を見上げるだけだった。

「何すんの?」

 キス、襲う、種類としては色々ある。問題はそれを俺が実行できないということだ。別れておいて、そういったことをさせようとしてくる名前の考えも読めない。

「……ここにお前が嫌いな女子を連れてくる」

 苦し紛れに言った俺に、名前が吠えた。

「嘘つけ! 聖臣は女子に話しかけられないぞ!」
「俺はそんな陰じゃねえ!」

 まったく、こいつといると調子を崩される。でも気まずい顔をしてほしいとも思わないのだから、困ったものだ。