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「助っ人でバレー部の合宿の手伝いに行くことになったからよろしく」

 私はクラスメイトの佐久早に言った。佐久早はクールな奴だが、少しくらい合宿で違う顔が見られるかもしれない。しかし、佐久早の焦った顔というのは、今日既に見られた。

「行くな」

 佐久早は動揺しているようである。一体何がバレー部の合宿にあるというのか。

「もしかして嫉妬? 寝起きや風呂上がりの私を他の男に見られることへの」

 私が佐久早をからかうのは珍しいことではなかった。その度に佐久早は不快そうな顔をして、「そんなことあるわけねぇだろ」と言う。私達はただのクラスメイトだからだ。しかし、今日の佐久早は深刻だった。

「逆だ」

 その瞳から、切迫した何かを感じる。私に訴えかけようとするかのような。

「俺の風呂上がりの姿を絶対に見るな」
「何その鶴の恩返しみたいな……」

 普通、風呂上がりを見られたくないのは女の子の方ではないだろうか。私は別に佐久早に恋をしているわけではないので、濡れた佐久早を見てときめくこともない。というか、練習で既に汗で濡れるだろう。

「あ、天パか」
「わかってるなら来るな!」

 思い出したように私が呟くと、佐久早は珍しく必死そうな顔を見せた。佐久早の弱点を掴めたようで面白い。でも、私にだけ見るなというのは不平等に感じる。

「マネージャーには見せてるなら私にも見せてくれていいじゃん!」
「ダメったらダメだ」

 佐久早は怒った猫のような瞳を向けて睨んでいる。それ以上言及するのは可哀想な気がして、私は風呂上がりの時間をどうするか考えた。この調子では、万が一にも佐久早が私の風呂上がりの姿を見たら卒倒しかねない。そう思わせる特別扱いをされていると、私は佐久早から感じていた。