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 園芸部のホースの水が、そばを通りかかった北にかかってしまった。私はその様子を窓越しに見ていた。私の部室はちょうど花壇の前に位置しているのだ。

 園芸部の女子は平謝りし、北はそれに対し紳士な対応をとっていた。それでも彼女は罪悪感で潰れてしまいそうだ。ここは私が場を和ませるしかないのだろう。

「水も滴るいい男!」

 私が叫ぶと、北は部室に佇む私の姿を捕捉した。そして部室の窓に近寄り、私の目の前に現れた。段差があるから、北の顔がすぐ近くにあるのが不思議だ。

「今頭に浮かんだ豆知識なんやけど、『水も滴るいい男』ってのは本来『蜜も滴るいい男』で娼婦が使ってたらしいで」
「許してください」

 北は園芸部の女子に怒っていたわけではない。普段からかえない北をからかうチャンスだと、不躾な掛け声をした私に怒っているのだ。私は北に性的なことを出されたら黙り込むほかない。私の反応を見て、北は溜飲を下げたようだった。

「俺格好よく見えた?」
「うん」

 私は頷く。北が異性にどう見られているかを気にしているのは珍しい気がする。この場合、私は異性にカウントされているのか怪しいのだけど。

「ならええよ」

 そう言って北は濡れた髪をかきあげた。その様子はコマーシャルか何かのようで、私は唇を固く結ぶ。何か変な声が出そうになるからだ。そうやって自然にできるところが、北の一番のカッコいいところではないかと思う。声に出しては言わないけれど。