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「どうして俺がいる日にしたんだ?」

 それが冴の一言目だった。私達は糸師家のリビングでもつれ合っていた。凛が無理やり私を押し倒したのだ。力で敵うはずもない。けれど、私だって本気で抵抗せずに凛になら話で説得できると思っていたのだ。

 そこへ、冴が登場した。冴は世界で戦うサッカー選手であり、私の彼氏だった。冴に怒っている様子はなかった。純粋に気になったから聞いているという風で、私を襲っていることに関しては何も責めていない。

「お前に見せつけるためだよ。今から名前を犯す」

 凛が低い声で言った。凛は何かと冴を敵視するきらいがあった。今だって、本当に私を好きなのか、冴に対抗したいだけなのかわからない。冴は視線を逸らして上着を脱いだ。

「それは名前に任せる」

 私は思わず冴を見た。仮にも冴は私の彼氏だ。殴って止める、まで行かなくてもやめろくらい言ってくれてもいいはずだ。冴も私のことが好きなのかわからなくなってきた。いや、こういうところはもはや冴の生まれ持った性格なのかもしれない。

「名前が嫌なら凛を止める。名前がいいってんなら凛とヤればいい。一度くらいで怒んねぇよ」

 冴は監視者であるかのように壁に背を預けて腕を組んだ。介入する気はないようだ。冴と凛の問題だと思っていた自分が愚かだと思った。これは冴と私の問題であり、凛と私の問題なのだ。

「どうすんだ」

 凛は鋭い瞳を私へ向けた。「犯す」など言っていたくせに、私の気持ちが気になるようだ。凛ですら強制的にはしてくれない。物事は全て、私の感情次第になってしまったのである。私の選択一つで、冴との仲、凛との仲が壊れてしまう。もしかしたら凛と冴の仲も。いっそ誰かが決めてくれたらいいのに、と思った。