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 道でエリザベスに手を引かれた私は、気付けば知らない顔が揃う集会のような場所に来ていた。帯刀しているところを見ると攘夷志士の集まりなのだろうか。だったら尚更何故私が呼ばれたのか謎だ。

「オイ何なんだよ、いきなり呼び出しておいて」
「銀さん!」

 私の隣に座ったのは銀さんだった。銀さんはかつて攘夷志士だったと、噂で聞いたことがある。エリザベスは何を企んでいるのだろう。

「待たせたな皆の者、これより会合を始める!」
「はっ!」

 襖を開けて出てきたのは桂さんだった。桂さんの姿を見た途端攘夷志士達が背筋を正す、のも一瞬で、桂さんが話し出すと各々ウノやお菓子に手を伸ばし始めた。

「きちんと聞かぬか! 重要な会議であるぞ!」
「つまりいつもの攘夷志士のオフ会ってとこだろ。俺ァ帰るぞ」
「あ、銀さん……」

 銀さんが席を立った瞬間、桂さんが今までにない大声で空間を切り裂いた。

「主人公・坂田銀時の相手についてだ!」
「……は?」

 銀さんが思わず立ち止まり桂さんを見る。私も動きを止めたまま桂さんの言葉を待った。

「今まで多くのジャンプ漫画が最終回発情期を迎えて完結している……だがしかし! 我らが主人公・坂田銀時は恋人すらいないではないか!」

 ウノに興じていた攘夷志士達もざわめき始めている。

「いや余計な世話すぎるんですけど」

 そう言う銀さんも立ち去れないのは、この場で誰とカップリングされるのか気になるからではないだろうか。攘夷志士達は次々に女性の名前を口にした。

「今まで絡みの多かったレギュラー女性陣はどうでしょうか」
「銀時のマダオっぷりを一番見てきたレギュラー陣が銀時と付き合いたいなど思うはずがない! 不可能だ」
「じゃあ公式でファン設定の結野アナは……」
「主人公補正が効きすぎだと叩かれる! 却下だ」

 国を憂う武士の集まりのはずが、一人の侍の相手について真剣に、本当に馬鹿に見えるくらい真剣に話し合っている。銀さんは立ち尽くしたまま死んだ目で一同を見ていた。私もそろそろ、嫌な予感がしていた。

「ではぽっと出のモブキャラを作ってくっつけるというのはどうでしょう?」
「貴様ァ! それは名前殿が銀時を好きだと知っての発言かァ!」
「あーーー!」

 私は遂に叫び出した。なんとなくこうなる気はしていたのだ。私の想いは銀さん含め周りに察されているし、桂さんは本人の目の前で銀さんを誰とくっつけるかという会議を開いてしまうほどのデリカシーのなさだ。今だって、私が銀さんをいかに好きかということを銀さん・私・攘夷志士の目の前で説いている。

「いいかよく聞け! 名前殿は銀時と出会った時から! 銀時が虚を追い二年江戸を空けた最中もずっと片思いし続けたのだ! その健気さは江戸一と言えよう! 銀時がぽっと出のモブキャラとくっつきでもしたら名前殿が報われぬではないか!」
「すっ、すみませんでした……」
「わかればよい」

 桂さんは私を見て親指を立てたが何もよくはない。何故フォローしてあげたという雰囲気になっているのだろうか。何なら桂さんは私にとどめを刺している。

「それじゃあ多数決を取るから銀時とくっつきそうな女性キャラを挙げてくれ。ただし未亡人は却下とする」

 いよいよ銀さんの相手が攘夷志士達の多数決によって決められてしまう。ホワイトボードには、キャサリンやジャスタウェイという名前が並んでいる。私はよく回らない頭で、とりあえず銀さんに謝ることにした。私が銀さんを好きだからなのか、この場で恥をかかせてしまったからなのかはよくわからない。

「銀さん、本当すみません……」

 私はてっきり銀さんならばこの狂った多数決を止めると思っていた。自分の相手くらい自分で決める、なんて銀さんの言いそうな言葉だ。あるいは一生伴侶を取るつもりはないのかもしれない。しかし銀さんを見ると、銀さんは意外にも呑気にあぐらをかいて多数決を眺めていた。

「いや、いんじゃね? あのメンツの中だったらお前勝てんだろ」
「え?」
「せいぜい勝てるように頑張れよ」

 私が銀さんを好きだと知っている上でのこの言葉は、どういう意味なのだろうか。混乱する私を置いて投票が始まる。この多数決には、銀さんも参加できるのだろうか。