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 凛と知り合った時、私は冴と肉体関係があった。それを正直に言っては、凛が私のものにならないと思った。正確に言えば、凛の頭の中に私の居場所はなくなるのだ。凛の頭は、いつだって冴でいっぱいだった。だから私は嘘をついた。冴とは何の関係もないという嘘ではない。その逆の嘘だ。

「何であいつと付き合ってるなんて嘘ついたんだよ」

 凛は熱を灯した瞳で私を見つめた。やはり私一人の嘘だったら、こうまで激昂しなかっただろう。凛に深く関わるには、冴と関わることが必要不可欠なのだ。だから冴に近付いたというわけではないが。そういえば、私と冴が関係を持ったきっかけは何だっただろう。

「そうしないと凛は私のことを欲しいと思わないでしょ」

 凛は拳でサイドテーブルを叩いた。置いてあったミネラルウォーターの水面が揺らいだ。私の嘘は実にうまくいっていた。凛は私を冴のものだと信じきり、私を求めた。私を抱くたびに、冴に勝ったような表情を浮かべていた。私は凛の体を頂いた。冴は私が凛と関係を持っていることに気付いていただろうが、何も言わなかった。どうでもいいと思っているのかもしれない。凛はこれほど冴のことを意識しているのに、無情な話だ。同じく私も冴から意識されていないことになるが、そこはあまり気にしていない。冴は体の関係の一人で、別に好きなわけではない。むしろ、嘘をついてまで手に入れたかった凛の方が好きなのだ。その関係も今、壊してしまったが。

 私は凛を見て口角を上げた。凛は人でも殺してしまいそうな顔をしていた。私達は三人ともどうかしている。