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「シンスケはさ、どうやってカノジョ選んでるの?」
「……そりゃあまた、くだらねェ質問だな」

 徐々に近付く地球の地面を見下ろしながら神威が尋ねる。高杉はゆっくりと口から煙を吐いた。その目線は地面ではない、どこか遠くを見ている。

「ありゃ、恋人って地球でカノジョって言うんじゃなかったっけ。まあいいや。シンスケの恋人は美人だけど、綺麗さで言えばこの間の遊女の方が上だったよね。シンスケは何が良くて付き合ったの?」

 高杉は煙管を咥えたまま口を開かない。とある事から手を組むことになった神威と高杉だが、決して友達になったというわけではない。それは神威も十分わかっているはずだ。それでも人のプライベートに土足で入り込むような真似をするのは、おちょくっているのだろうか。元からの性格か。神威の場合は後者だろうなと思いながら、高杉は煙管を手にした。

「少なくとも俺は面の良さだけで女は選ばねェな」
「じゃああのひ弱そうな女が実は強いとか? シンスケの恋人だからシンスケくらい強いのかな。それだったら紹介してよ。俺にもヤらせて」

 笑顔で語る神威に対し、高杉は眉をやや上げた。俺にもヤらせて、とは二重の意味を含んでいるのだろう。神威がただの戦闘狂ではなく、成熟した男子であることはわかっている。

「生憎女の貸し出しはしてないんでね」
「へぇ、シンスケって淡白そうに見えるけど恋人への独占欲とかあるんだ。意外。しょっちゅう地球に来てるみたいだし、相当入れ込んでるんだね」

 高杉ははっ、と笑って煙を吐き出した。

「さっきから勘違いしてやがるが……俺とあいつは付き合っちゃいねェよ。ただ地球に来たら面合わせるだけだ」
「それを通い妻って言うんじゃないの?」
「かもな。少なくとも十年前まで恋人だったのは確かだが……散り散りになってからは、気が向いた時に抱くだけだ」

 言葉にしてみると、高杉と名前の関係は奇妙なものだ。元恋人でありながら、犯罪者である高杉と体の関係を続けている。高杉はともかく、名前は相当肝が据わっていると言えよう。

「じゃあ彼女はシンスケのことが大好きなんだね」
「だろうな」
「知ってるくせに応えてあげないんだ?」

 そう言って高杉の方へ視線を寄越す神威に高杉は舌打ちをしたくなる。一回り近く離れている子供のはずが、随分舐めた真似をしてくれるものだ。話しすぎたのだろうか。神威の言葉は、名前の気持ちを知ったまま明確な言葉や関係性を与えない高杉を責めているみたいだ。

「てめェにはわからねェだろうよ」
「ふーん、俺だったら指名手配中でも女くらい攫っちゃうけどなぁ」

 神威は高杉が名前と恋仲にならない理由を高杉の身分であると考えたらしい。否定するのも面倒で、高杉はまた煙管を咥える。高杉と名前を隔てるものが高杉の身分だけだったら、どれだけよかっただろうか。

「俺もてめェくらい若けりゃ攫ってたかもな」

 十年という月日は、思ったよりも長い。今宵もその感覚を味わいに、高杉は地球の一角に足を運ぶ。