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「遊ぶ女を紹介してほしい」

 そう申し出たのは佐久早だ。靴紐を結び直していた侑は一瞬手を止めた後、また何事もなかったかのような顔をした。

「どしたん? 珍しいどころやないで」

 佐久早は潔癖だ。ものに対しても、人に対しても。女は遊ぶものではなく、真剣に付き合うものだと考えている。侑のことを馬鹿にさえしていたはずなのに、どういう風の吹き回しだろう。

「今遊ぶ気分なんだよ。そういうのはお前得意だろ」
「まあそやな」
「否定しろ」

 侑は靴紐を結び終え立ち上がる。佐久早とは決して気が合うわけではないが、侑の考えに賛同するなら手を貸してやろう。それくらいのよしみはある。

「練習場近くのホテルに呼びつけといたから、たまには発散してみ」

 侑はそう言って、体育館へと向かった。


 練習終わりの佐久早は指定のホテルへ向かっていた。いつも彼女とする時はどちらかの家だったから、変な感じだ。佐久早はつい最近別れた彼女――苗字名前を思い出した。彼女の損失は思いの外大きかったらしく、佐久早をこんな行動に駆り立てている。

 エレベーターに乗って、指定の部屋へ行く。なんだか帰りたくなってきた。女を抱いても忘れられなかったらどうしよう。いや、名前のことなど忘れられるはずがない。

 諦めの気持ちでドアを開くと、そこにいたのは名前本人だった。佐久早は目を丸くした後、それでもドアの中に滑り込む。呼んだのは、名前ではなく侑の名前だ。

「宮……っ!」

 大方、余計な気を回したのだろう。何故佐久早と名前のことを知っていたのかは定かではないが、お膳立てなど侑がやりそうなことだ。そうでなければ、名前が宮の遊び友達だったということになってしまう。

「待って、私、合意で来てるから」

 殺気立つ佐久早に名前が声をかける。佐久早は視線をそちらに向けた。嫌な気配がそろりそろりと忍び寄る。

「つまり、佐久早くんともう付き合うことはできないけど遊びでならいいってこと」

 佐久早は口を小さく開けたまま目を見開いた。確かに、佐久早の恋は叶わない。もう名前と付き合うことはできない。でも、名前を抱くことならできる。この甘い誘惑に、どこまで佐久早は耐えられるだろうか。佐久早は名前に一歩近付いた。