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 金曜の晩、飲んでいた時にいい男と知り合った。身長が高く顔もいい。物腰も穏やかだ。私達は言葉にはせず合意して、ラブホテルへと連れ立った。内容は実に普遍的なものだった。彼は教科書のようなセックスをした。私が疲れて眠ろうとする頃には、「おやすみ」と頭を撫でてくれた。

 翌朝、目が覚めると彼はいなかった。少し落胆してから、こんなものか、と思い直す。所詮はワンナイトだ。まるで本物の彼女に対するような彼の甘い態度に懐柔されていただけだ。

 念のためバッグの中身を調べたが、なくなっているものはなかった。私もそろそろ出なくてはならないと立ち上がりかけたところでドアが開く。彼だった。

「ごめん、犬の散歩があったんだ」

 そう言う言葉は嘘ではなさそうだった。彼は運動をしてきた後のように、少し汗をかいている。

「それで戻ってきたの?」
「うん。名前ちゃんいるから」

 彼はソファに腰掛ける。わざわざ戻ってきてくれるくらい、私は大きな存在だとでも言うのだろうか。彼はにこにこと微笑んでいる。その顔を見ると、本当に私が彼の特別になったかのように錯覚してしまう。私は視線を逸らすように自分の足元を見た。

「そんなに近いなら初めから家ですればよかったんじゃ……」
「こういうのはホテルだから燃えるんでしょ」

 気付けば彼は隣にいて、私をベッドに押し倒した。彼のがっしりした体格と汗ばんだ肌にどうしようもなく男を感じた。もう、彼が私を女として見ているのか穴として見ているのかもどうでもいい。私はまた、彼の言いなりになった。