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「玲王くんと仲良いよね?」

 それが私達の第一声だった。学校のどの玲王くんファンも、玲王くんと親しい凪から攻略するという方法は思いつかなかったようだ。事実、凪は初めの方そっけなかったが、今では玲王くんの好きな食べ物やオフの時間を教えてくれる。凪はやはり玲王くんのことをよく知っているようだった。「どうしてそんなに玲王が好きなの」という声に対して、私は答える。

「玉の輿になりたいの!」

 何の捻りもない、安直な理由だ。凪は特に呆れるでもなくゲームを続けた。

「お金があれば何でもいいの?」
「気が合えばなおいい」
「ふーん」

 私が玲王くんと気が合うことなどないかもしれない。でも、玲王くん以上の完璧な男の子なんていない。

 二人が学校からいなくなっても、休学が続いても、私の片思いは終わらなかった。凪に呼び出されたのはテレビでも中継された試合後のことだ。凪と会うのは実に数ヶ月ぶりだった。玲王くんに会いたいと思うべきなのに、私は凪に会えることに興奮していた。

「俺、サッカーで世界一目指すから少なくともお金持ちにはなれると思う」

 待ち合わせ場所に着くなり、凪はそう言った。私は凪が何を言いたいのかわからず、はたと固まる。そして一つの可能性に辿り着いた。凪は「玉の輿になりたい」という私の言葉に反応しているのではないかと。

 凪は責めるように私を覗き込んだ。私はその後に言った言葉を思い出す。嫌な予感がする。

「玲王よりも俺の方が気、合ってるよね?」

 そう言われてしまえば、私はもう逃げる方法がなかった。自分で言ったことなのだ。お金持ちなら気が合う方がいいと。窮地に追い詰められていることによる緊張が、凪への好意とすら錯覚してくる。いや、錯覚ではないのかもしれない。妖精とすら思っていた一九〇超えの男を、私は異性として認識しなければならない。それは思ったより難しいことではないようだった。