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治がうちに鞄を忘れて行った。私はすぐさまそれに気付き、午後から部活に行っただろう治に連絡をした。
「家の前に置いてきた」
返事は部活が終わった頃に一言、「ありがとう」のみだった。しかし治の中に違和感は確実にあったようで、翌日の登校時に治は私の隣へやってきた。
「何でうち知っとんの?」
そう、私は治から家を教えてもらったことがない。一瞬嘘をついた方がいいのかと思う。けれど、勝手に家へ押しかけ嘘までついたらそれこそ救えない女だと思う。私は前を向き、できるだけ何気ない風を装って言った。
「侑と付き合ってた」
「先に言えや……」
治は項垂れていた。少なからずショックがあるのだろう。私の心が揺れてくる。もし、別れると言われたらどうしよう。
「言ったら治付き合ってくれへんかったやろ」
「それはそうやけど」
私と侑は既に家へ行った関係だ。つまり、そういうことなのだ。本物の兄弟が穴兄弟になるのは嫌だろう。治は私をとるか、侑をとるか。侑と女を被らせないためなら別れる、くらい言いそうだ。普段の喧嘩を見ている限りでは。
治は額に手をやり、困ったように目を閉じた。
「今更言われても、もう離せへんやん……」
「あ、それ格好いい」
こんな場面でも、キザなセリフが板についているものだ。私は治に選ばれたことに安堵しつつ、治が手放せないものになっていたことを喜んだ。
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