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 憂鬱なテスト期間、雨の降る日を待っていた。木兎と密かに歩調を合わせ、同じ速度で昇降口を出る。傘を開いた木兎に対し、私は両手を額の前につくだけだった。傘がない。私は今それをアピールしていたのだ。

「え、苗字傘ねーの? 赤葦傘貸してやって! 折りたたみも持ってたじゃん!」

 案の定と言うべきか、木兎は反応した。私達は曲がりなりにもクラスメイトだった。休み時間のたびによく話すというほどではないけれど、木兎から課題のたびに頼られる程度には仲がいい。私は赤葦と呼ばれた後輩を見た。彼は二年の昇降口から出てきた。何を考えているのかもわからないような目で。

「貸すのは別にいいですけど、彼女が求めているのは違うと思います」

 どきり、と心臓が嫌な音を立てる。後輩に「彼女」呼びをされたのは驚きだ。でも彼は、それが似合ってしまうような雰囲気をまとっていた。

「どーいうこと?」

 木兎が尋ねる。そのまま純粋でいてくれればいいのに、知将かのように彼は述べる。

「だから、苗字さんは木兎さんと相合傘がしたくてわざと傘を忘れたのかと」

 私は唇を噛んだ。第三者に目論見をバラされる、これ以上に恥ずかしいことはないだろう。浅ましい女だと思われたかもしれない。私は顔を上げることができなかった。

「そっか〜、でも俺大会前であんまり濡れたくねぇからさ〜……二人でレジャーシート被って歩かない!? これなら二人共濡れないっしょ!」

 木兎が私を受け入れてくれた。その喜びが勝って、レジャーシートを被って歩くという不審者でしかない発案はかすんでしまった。

「お幸せに」

 私達の横を彼が通り過ぎる。立派な傘だ。一方木兎はレジャーシートをとりに部室へ向かっていた。何故部室にレジャーシートがあるのだろうと、今更ながらに思った。