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 晴れた日の日曜日、私は佐久早と共に街道を歩いていた。サークルの合宿に向け買わなくてはならないものが多数あったのだ。一人では判断に欠けると思った私は、高校からの仲である佐久早を呼び出した。佐久早は嫌そうな声を出したものの、こうして買い物に付き合ってくれ、特に目的もなく街を歩くこともしている。視界に公園を見つけた私は、適当に腰を下ろすことにした。

「はー、やっぱ晴れた日は気持ちいいね」

 ベンチに座った佐久早は無言でペットボトルの蓋を開ける。カフェで休憩するのもいいが、こう天気がいい日は公園で伸び伸びするのもいい。少し離れた砂場では、子供達が遊んでいた。

「佐久早のおかげで助かったよ。サークルで色々やるからさ。私一人じゃ決められなかった」

 佐久早は私の話を黙って聞いていた。私達はいつもこうだ。私ばかり喋って、佐久早はそれに耳を傾けている。最初は無視されているのかと思ったが、佐久早は私の話した内容をきちんと覚えている。

「本当、いい男友達持った」

 だが、その瞬間だけは違った。お茶を飲むために下げられたマスクは上がることなく、私の顎に当たった。触れたのも幻かと思うくらい僅かな間、佐久早は私の唇に唇を触れさせたのだ。

「佐久早、何今の……」
「うるせえ。セックスじゃなかっただけよかったと思え」

 事態について行けない私を置いて、佐久早はとんでもないことを言った。佐久早の言うことが本当ならば、佐久早は本当はセックスがしたいけどキスで我慢した、というところだろうか。

「友達ってだけで貴重なオフ潰して買い物付き合うかよ。高校時代から俺がいるのが当たり前みてえな顔しやがって。鈍いんだよ」

 佐久早の顔は口説いているというより、悪態をついているみたいだ。だが実際に佐久早の言うことももっともなのかもしれなかった。佐久早が高校時代から私を好きならば、私はもう三年以上佐久早の気持ちを無視していたことになる。そりゃあ押し倒してやりたくもなるだろう。

「何で言ってくれなかったの……」
「言ったらお前そういう顔するだろ」

 佐久早に言われて、私は自分がどれだけ酷い表情をしているかに気付いた。佐久早は誤魔化すように目を逸らし、手の中のペットボトルを弄る。

「でもこうさせたのはお前だから、責任とれよ」
「じゃあ、私は佐久早と付き合えばいいの……?」
「付き合いたいかどうか真剣に考えろって言ってんだよ」

 佐久早は怒ったように言うと、まだ少し残っているペットボトルをゴミ箱へ捨てた。

「行くぞ。家まで送ってく」

 まだ高い位置にある太陽が佐久早の背中を照らす。見慣れた姿であるはずなのに、今は知らない男の人みたいだった。