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 出水は、後輩に新しくできた彼女の話を一方的にしていた。二宮と出水の会話はいつもこうだ。二宮も出水の話を聞いてはいるのだが、口を開くのは出水ばかりである。たまには自分も話すかと適当に話に入ろうとすれば、出水に話の先をかっさらわれてしまった。

「おれの彼女? いないですよ。二宮さんが付き合っちゃいましたもん」

 出水は平然と、売店で買ったアイスクリームを食べている。二宮が話そうとしたことを予知してしまうのも恐ろしいが、もっと恐ろしいのは争いの火種になりかねないことを世間話のように言ってしまうことだ。

「お前……そういうことを軽々しく言うな」

 二宮は頭を手に当てた。どう接したらいいかわからなかった。多分どう接しても出水は怒らないのだろうが、今回は二宮に分が悪い。何せ、二宮は出水から名前をとってしまったのだから。

「名前さんも知ってますよ? 知らないのは二宮さんだけです」

 二宮の知らないところで三角関係があったのだ。名前も名前で、何故言わないのだろう。二宮は心の中で舌打ちをした。そもそも、名前が知っているということは告白したのではないのか。頭の中で名前と出水が並んでいるところを想像してみる。

「俺が付き合っていなければ付き合っていたのか」

 心の中に、焦りのようなものが走る。二宮と名前が付き合えたのはほんの偶然で、二人の付き合いは綱渡りのようなものなのではないか。出水は二宮の心境も知らずに、もうアイスのついていないスプーンを口に含んでいる。

「さあ。二宮さんと付き合って名前さんのことますます好きになったから」
「どういう理屈だ」
「いい趣味してるなって」

 二宮は眉をひそめた。からかわれているのか、それとも本気なのか。いずれにせよわからない奴だ。「もっと好きになった」のならより警戒しないといけないはずなのに、出水相手だと毒気を抜かれる。これも全て計算通りなのだろうか。いや、出水に限って計算などなさそうだ。二宮は腕を組み直し、床の一点を見つめた。二宮も何か、アイスクリームでも食べたい気分だ。