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「私も弟が欲しいな」
それは何気ない一言だった。冴を見ていたら、兄弟というものが羨ましくなったのだ。とりわけ凛のような素直で可愛い子が。
私は一人っ子だった。今から子供を作るのは現実的に無理だとわかっている。だからほんの願望の独り言だったのだが、冴は反応した。
「凛やるよ」
「えっ! いいの!?」
私は前のめりになった。凛が私の弟になる。ということはつまり、私が冴と家族になるということだ。そのことへの照れはひとまず置いておくことにして、私は凛が自分の弟になったことを喜んだ。
「よろしくね、凛」
凛は頬を染めて、ぼうっとこちらを見ていた。凛はまだ自分が私の弟になるということがどういうことかわかっていないかもしれない。結婚したら義兄弟になるのだということは、近い間に冴か誰かが教えてくれるだろう。
「名前」
結論として、凛は誤解をしているようだった。義兄弟の意味を冴が教えてくれたのかはわからない。冴がスペインに発った後、凛は私にべったりと張り付くようになった。
「名前は俺のもんだ……あの時アイツが言ったんだからな」
どうやら、「凛やるよ」という冴の一言を、私が冴とくっつくという意味ではなく私と凛がくっつくという意味に受け取ったらしい。冴に誤解をといてもらおうにも、彼は海の向こうである。もしかしたら凛もわかっていてやっているのかもしれない。途中までは本気で誤解していた可能性もあるが。
私をじっと見る、熱い瞳と目を合わせる。経緯が何にせよ、最初に弟が欲しい――凛が欲しいと言ったのは私なのだから、付き合うしかないのだろう。私は凛の背中に肩を預けた。
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