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任務からの帰り道で夏油先輩に会った。私達は高専までの道を一緒に歩いた。気分は落ちているはずなのに、不思議と口は饒舌だった。私は一種の非現実感のようなものを抱いているのかもしれない。
「救えないことばかりですもん。そりゃ嫌になりますよね」
私は言った。今日、一般人を助けられなかった。呪霊にやられて死んだ彼は、事故で死んだということになっている。五条先輩だったら助けられただろう。夏油先輩が希望をなくしてしまうのもわかる。
「嫌になる」とは私のことで、決して夏油先輩が未来で離反することを指したわけではないのだが、夏油先輩は静かに言った。
「君はタイムリープしている」
私達の頭上で、木の葉が掠れる音を立てた。私達は相変わらず歩いていた。足を止めてしまうほど、ショッキングな話題ではなかった。
「よくわかりましたね」
「わかるさ。よく見てるからね」
暫く無言が続く。私は自分のペースで歩いていた。夏油先輩が歩調を合わせてくれているのだと気付いたのは後からだった。
「先輩が呪詛師になるのはこれで五十五回目です。救えた回もありましたが、それでもタイムリープは終わりませんでした」
簡単に人の未来を告げないでくれよ、と夏油先輩は笑った。もうその未来はわかっているようだ。彼の中でその意思があるのだろう。衝撃を受けた様子はない。夏油先輩は笑みを消すと、「つまり」と口を開いた。
「終わらせる条件は私の正当性ではない」
「はい。私気付いたんですけど、一度も夏油先輩に好きだと言ったことがないんです」
私は至って真面目に話した。最初はタイムリープが夏油先輩を呪詛師にさせないためのものだと思っていた。しかし、高専に残る未来でもタイムリープは続いた。私の心残りと言えば、夏油先輩への淡い思いでしかないのである。
「今言ったよ」
「はい。だから、これで最後です」
「そうか」と夏油先輩は言った。そのまま私達は高専へと歩いた。私達は終わりへ向かっていた。夏油先輩が呪詛師になることも、タイムリープが終焉することも、ほぼ確定していた。その限られた時間の中で、私は何ができるのだろう。何も知らないような空の青さが恨めしくなった。
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